312877 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

EP27「空翔る一撃」

 -8/23 AM07:22 ARS機神・疑似機神ハンガー-

淳「時間押してるぞ!!ディスペリオンとディフィートを最優先で完成させるんだ!!」

 ハンガーの中で、いつもと声のトーンがおかしい佐久間の声が響いている。

茜「暁、悪魔でエイオスに装備するロケットブースターは急ピッチで製作したその場しのぎのものに過ぎないわ。
  米政府と掛け合って譲ってもらったスペースシャトルを改造したものだから戦闘兵器としての戦力は0とみてなさい。」
暁「了解、とりあえずの飛び方はコイツ見とけばいいんだろ?」

 学生向けのスペースシャトルの仕組みと書かれた本をパラパラとめくった。

茜「頭の片隅程度においておけばいいわ。」
暁「あんまり心配した顔すんなよ、大丈夫だって。」

 ガツンと鈍い音がハンガーに鳴り渡る。エイオスの後ろにスペースシャトルそのものと言っていいブースターが取り付けられた。
そう、次の目的地である"宇宙"へと向うために。


 EP27「空翔る一撃」


 -8/22 PM12:00 ARSオペレーションルーム-

雪乃「先ほども連絡した通り、今回の作戦は初の大気圏を突破しての任務となるわ。
   まずはこれを見て。」

 だだっ広い会議室のような部屋の正面モニターに1/4の地球の断面と宇宙の絵が浮かび上がった。
その宇宙の中に、赤く光る点があった。

雪乃「この位置に次元湾曲砲"グラヴィデジョン・プレッシャー"を装備したヘカトンケイルが確認されているわ。
   全長はざっと200m以上、幅は600m以上の代物よ。調査の結果、向こうはすでに充填率半分を超えているから、
   発射は明日の昼過ぎとみていいわ。」

 別窓が開き、巨大なヘカントケイルのフォルムが映し出された。

雪乃「今回は米政府の協力により、早朝にスペースシャトルを改造したロケットブースターが届くわ。
   これを利用して一気にヘカントケイルの撃破を図ります。もちろん広範囲破壊兵器を搭載しているのはアルファードが無い今、エイオスのみとなるわ。」

 有坂が俺の顔を見た。

暁「大丈夫です、俺が行きます。」
雪乃「慣れない宇宙だと思うけど、よろしく頼むわね。
   ブースターを装備したエイオスは、ARSから直接ヘカントケイルへと射出。その間の敵防衛ラインを円滑に突破するために、他の機体は2部隊に分かれて、
   ポセイドンとガルーダで防衛線まで接近、敵戦力を半分にまで抑えたところでエイオスを射出するわ。」

 モニターのARS本部とヘカントケイルとの間に2本の線が引かれた。

雪乃「ARSに近いこちら側に約100体のエインヘイト及びエインシードの部隊、そしてリデンスキャフトが確認されているわ。
   この第一防衛ラインには11:00にポセイドン部隊が突破に当たってもらうわ。」

 有坂が端末を操作すると、ポセイドン部隊に配属される真、寺本、桜、結衣、輝咲の姿が顔が映った。

雪乃「まずは機神化したゲッシュ・フュアー"ブラステリオン"で敵部隊に大ダメージを与えるわ。
   その後は王羅武、アンジェリカ、フィーニクスで突破口を開きつつもリデンスキャフトを足止めよ。」

 機神化に伴い、寺本と桜の2人乗りとなたブラステリオン。いつか真が全身金色に塗った機体で俺を助けるとか言っていた気もするが、それが実現となったセイヴァー
の機神化セイヴァー"王羅武"(金=オーラムの当て字で真が考えた名前らしい)。さらにはルージュに支援機能を多数搭載した機神アンジェリカ。そしてフィーニクスの姿が映った。

真「ま、俺の王羅武一気でちょっと軽い無双かましてやってもいいけどな!」
かりん「言ってくれるわね~。佑作、せっかくアタシも一緒に乗るんだからコイツ以上は落すわよ!」
佑作「もちろんっすよ!」
結衣「輝咲ちゃん、頑張ろうね!」
輝咲「はいっ!」

 続いてモニターは、その次のラインへと移った。

雪乃「第二防衛ラインは少し厄介な相手だけど、例のX-ドライヴァーであるレインのスィージメント、グラネスカット、レイフェジーズが待ち構えているわ。
   こちらには11:30、ガルーダ部隊で対処してもらうわ。」

 画面に神崎、青葉、レドナの顔が映る。

雪乃「3体3で不安でしょうけど、長距離砲撃ができるブラステリオンとガルーダに搭載されたアルヴィスネイトの援護射撃もこれに加わるわ。」
静流「その前に、私と夜城の機神は桁違いにパワーアップされていると聞いているが?」

 画面にはそれぞれの機体の面影を残しつつも、追加装備が施されたディスペリオンと、新たなる外装を装備したアビューズ"ディフィート"の姿が映し出された。

雪乃「えぇ、神崎君には強化装甲をつけたディフィートに。夜城君には以前アルファードの強化プランになるはずだった遠中近をまとめて装備したX戦兵装を装備したディスペリオン
   で出てもらうわ。」
レドナ「でも待ってくれ、アルヴィスネイトはすでにリベリオンのパーツとして使われたんじゃ・・・?」
雪乃「そうよ、だから佐久間さんにはリベリオンパーツで復元したアルヴィスネイトで出てもらうことになってるわ。」
陽子「なんだか、ほんとに決戦って感じだねぇ・・・。」
雪乃「戦力を出し惜しみしている場合じゃないわ。それに出撃を決心したのは彼自身だもの。
   さて、そして次は最後よ。」

 ARSから伸びた矢印が第一第二防衛ラインを突破し、ヘカントケイルへと突き刺さった。つまりこれが俺の航路という訳だ。

雪乃「ここまできたら、あとは最大出力でエイオスはヘカントケイルに接近。ノヴァで一気に破壊よ。」
暁「最速で出撃準備が終わるとして、ヘカントケイルにエイオスが到着してから発射までの時間はどのくらいですか?」
雪乃「10分あるかないか・・・微妙なところね。どうかしたの?」
暁「エルゼがこのチャンスを逃すわけがない、なんとしても発射を成功させるはず・・・、なら、エルゼは絶対に俺を足止めする。」
真「暁、こないだ俺たちが言ったこと、もう忘れたのか?」

 不安そうな顔をしていたのか、真が俺の肩を叩いた。

暁「んなわけねーよ、やってやるさ。何があっても。」


 -8/23 AM10:45 ARS機神・疑似機神ハンガー-

真「うっひょ~、やっぱ俺の金に限るぜ!!」

 エイオスの中でロケットブースターのチェックをしていると、隣のハンガーにある金色のセイヴァーの足元で真がハイテンションで叫んでいた。
横の階段を上がってくると、真はセイヴァーのコクピットを開けた。

暁「機神だからって無茶すんなよ。」
真「魔神機だからって無茶すんなよ~だ。」

 俺の真似をして真が言う。

真「なぁ、こんな時になんだけどよ、一つ聞いていいか?」
暁「アホな質問だったらぶん殴るぞ。」
真「まぁ聞くだけ聞けよ。
  ・・・敵にやられそうなときって、お前なら最後に何を想う?」
暁「さあな。お前のことなら、明日の晩飯のことでも考えとけばいいんじゃねぇのか?」

 適当に返事をしたが、真がこういうことを聞いてくるというのはかなり緊張しているようだ。

暁「考えるだけ無駄だぜ、お前がやられることなんて、ないだろうに。」
真「ははっ、そりゃそうだな!
  それじゃ、そろそろ俺らは行ってくるぜ!」
暁「あぁ、気をつけろよ。」
真「おう!」

 セイヴァーがハンガーから離れ、ポセイドンへと収容された。その後に、ブラステリオン、アンジェリカ、フィーニクスが続く。
まさに、その時だった。ハンガー内にうるさいほどの警報音が鳴り響く。

雪乃「佐久間さん、すぐにエイオスを打ち上げて!!ヘカントケイルが超高速で移動を開始しているわ!!」
暁「何だって!?」

 放送の内容に耳を疑った。

淳「そんなぁ、積み込み作業開始しているときに・・・!
  鳳覇君、地上のカタパルトに移動してくれ!」
暁「了解っ!」

 エイオスのハンガーが上へと上がり、地上へと向った。

茜「データ回ってきたわ、どうやら地球の反対側に移動しているみたいよ。」
暁「このブースターで間に合うのか?」
茜「燃料は持つと思うけど、正確な到達地点が不明だから何ともいえないわ。」

 その時、エイオスがガクンと揺れた。移動してきたまさにスペースシャトル発射用の打ち上げ台がエイオスを固定した。

暁「とりあえず、何かしなきゃ可能性は0だもんな。」
茜「暁・・・。」

 モニター越しの御袋が下を向いた。

暁「上向いとけよ、俺は"希望"だぜ。どっかの親父が言ってたことだけど。」
淳「お邪魔して悪いけど、発射準備完了だ。タイミングは鳳覇君に任せる。」
暁「了解、コントロール来ました。」

 カタパルトのコントロール系統が全てこちらで操作できるようになった。

茜「暁・・・、やっぱりあんたに"暁"って名前つけてよかったわ。
  それじゃ、頼むわね。」
暁「おう、いってくる。」

 俺はモニターを切った。一瞬の静けさ。俺はすぅっと息を吸った。

暁「鳳覇暁、エイオス、行きます!!」

 重いレバーをぐいと引くと、背中のロケットブースターに火が入る。巨大な爆発音がしたかと思うと、エイオスはすぐにARS本部を見下ろせる位置まで上昇した。

暁「くっ・・・。」

 今何キロ出ているのか分からないが、体中が重い。いつも以上にエイオスがガタガタ振動で震えている。気付けば雲を突き抜けた。思えば、ここから上は今までの
経験上行ったことの無い未知の世界だった。若干肌寒く感じる。
 もう何分経っただろうか、視界を遮るもののない神秘の世界を見渡していると、あたりがだんだん暗くなっていった。

雪乃「大丈夫、鳳覇君?そろそろサイドブースターパージポイントよ。」

 ノイズまじりで有坂から通信が入る。

暁「了解、サイドブースターを破棄します。」

 ボタンを押すと、背中のロケットブースターの端に付いている小さなブースターが外れた。

雪乃「後5分で大気圏に突入するわ。また時間になったら通信を・・・――
   待って、3時方向から急速接近する機体あり、この熱源、エデンよ!!」
暁「っ!!」

 振り返ると、眩く光り輝く機体がこちらに接近していた。

エルゼ「やぁ、鳳覇 暁。そんなに急ぐこともあるまい。」

 エデンの手からビームが放たれ、背中のロケットブースターに直撃した。まだ大量の燃料を積んでいるブースターが大爆発を起こす。

暁「ぐあぁぁぁっ!!!」

 エイオスが衝撃で投げ出される。なんとか羽を広げて衝撃に耐える。急に変な方向に飛んだ所為か、気持ち悪いほどの吐き気が俺を襲った。
奥歯をかみ締め、体制を立て直す。

暁「有坂さん、ブースターが!!」

 通信を開くも、酷いノイズがスピーカーから流れてくる。これもエデンの力だろうか。

暁「くそっ、やるしかないか・・!」

 俺はエイオスの太刀を2本取り出して構えた。

エルゼ「ゆっくりと茶を飲みながら話をする暇はないようだな。」

 さっきビームを放った手から、オレンジ色をした光の剣が現れた。

暁「ぜったい攻撃を止めてやる、お前もここで消してやる!!」
エルゼ「やってみせて貰おうか、鳳覇 暁!!」

 太刀とオレンジの剣が鍔迫り合い、閃光の火花を散らす。

エルゼ「鳳覇 暁、お前は何のために戦う?」
暁「お前たちからこの世界を守るために決まってるだろ!!」
エルゼ「気付かないのか、私は地球という意志を尊重し、この星を守っている。
    それに反逆する行為、それはこの世界への敵対ということではないのか?」
暁「ふざけやがって、お前たちが世界の創造主だとは信じない!!
  今回は手加減しねぇぞ!!」

 エデンの腹部に蹴りをいれ、若干の間合いを取る。羽を広げ、オレンジ色の光を収束させる。

暁「エイオシオン・ノヴァッ!!」
エルゼ「迎え撃てエデン、エデオニアス・ノヴァッ!!」

 同じ色の光がぶつかり合い、空間を蝕みあう。その後に訪れた衝撃波に、エイオスとエデンは吹き飛ばされた。互いに空中で体制を立て直す。

エルゼ「上へと向うのだろう?一つ言っておこう、諦めろと。」
暁「誰が諦めるかっ!」

 羽を広げ、エデンに接近する。

暁「ディメンジョン・ガジェッター展開!」

 左肩付近の空間が湾曲し、オレンジ色の大剣トワイライトブレードを取り出す。

エルゼ「その武器は・・・、なるほどレイン・フルブレイムたちが退くわけだ。」

 エデンはオレンジ色のビーム剣で防ごうとせず、後ろへと後退した。

エルゼ「鳳覇 暁、お前がこの私を倒しても、上へと上りヘカントケイルを止めても世界の運命は変わらない。」
暁「どういうことだ!?」
エルゼ「私という存在は全ての時間軸に存在する。そして私はすべての時間軸からここに来ることができる。
    まぁもっとも、その時間軸に存在している私という存在が居ない場合の話しだがな。」
暁「お前をここで倒しても、別のお前が違う時間から来る・・・。」
エルゼ「理解が早くて助かる。
    今の私は本来この時間にいるべき存在ではないからな。未来にいる幾億もの私という存在がお前を倒しに来る。」
暁「なら、そいつらを片っ端からぶっ潰すまでだ!」

 エイオスのレバーを握りなおす。再びトワイライトブレードを振り上げながら、エデンに接近する。

エルゼ「初めて出合った頃よりも、お前は進化しているな。面白い。」

 トワイライトブレードを振り下ろすと、エデンは白刃取りで交わした。直後にエデンの後ろが光を放つ。
咄嗟にブレードを離し、エイオスの高度を上げた。次の瞬間、ブレードはエデオニアス・ノヴァの力に消滅した。

暁「くそっ、トワイライトブレードが・・・!」
エルゼ「どうする、まだ戦うか?・・・おや、客がもう一人増えたようだな。」

 エイオスの隣に、ディメンジョン・ガジェッターの時と同じ湾曲模様が浮かび上がる。その空間から、3本の爪を持つ手が
現れた。そして、本体がゆっくりと出てくる。

暁「フィーニクス・・・、輝咲!?」
輝咲「こ、ここは・・・?エイオス、それにエデン?」

 モニター越しの輝咲がきょとんとした顔をする。どうやら、輝咲の意志でここに来たわけではないようだ。

暁「どうしてここに?」
輝咲「分からない、でも突然この子が勝手に動き出したと思ったらここに・・・。」

 フィーニクスはエイオスの隣で羽を広げて高度を保った。

エルゼ「ゼオンめ・・・、守護神まで武器庫に入れていたのか。」
暁「守護神だと?」
エルゼ「もう消えゆくお前たちに教える必要もあるまい。後は次元ごと引き裂かれるがいいさ。」

 エルゼがそういい残すと、エデンが光り輝きだし、次の瞬間にはどこかへ消えていた。同時にARSとの通信機能が戻り、
有坂の声が聞こえてきた。

雪乃「通信直ったみたいね、榊さんは一緒?」
輝咲「はい、私もここにいます。」
雪乃「鳳覇君、ロケットブースターはまだ生きてる?」
暁「さっきのエデンとの戦闘で落とされました、エイオスの推進力で間に合いますか?」
雪乃「・・・。」

 返答はすぐには返ってこなかった。

暁「・・・俺、行きます。ここで諦めたくないから。背負っているのを投げ出したくないから。」
雪乃「もう無理よ。エイオスの最高時速で計算しても、到底ヘカントケイルには間に合わないわ。」
輝咲「私も行きます、フィーニクスでエイオスを押し出せば、少しは早くなると思います。」
雪乃「でも・・・。」
剛士郎「有坂君、止めることはもうないだろう。」

 突然スピーカーから司令の声が聞こえた。

剛士郎「鳳覇君、榊君。私は君たちを信じる・・・いや、正確には信じてみたい。
    本来は敵として我々に刃を向ける鳳覇君は、今こうして我々の助けとなっている。
    そしてその理由は榊君、君との出会いのお陰だ。」

 俺も輝咲も、黙って司令の話を聞いていた。

剛士郎「ほんの些細なことで、運命というのは変わるものなのかもしれん。
    だとしたら、君たちの強い意志は、かならず運命を変えてくれるはずだ。」
暁「司令・・・。」
剛士郎「行きたまえ、鳳覇君、榊君。
    どうすることも出来ない我々だが、信じることぐらいの加勢はさせてくれ。」
暁「了解です、司令!!行こう、輝咲!」
輝咲「うん!」

 フィーニクスがエイオスを掴むと、2機は羽を広げ、さらなる上空へと舞い上がった。ロケットブースターの速度に比べると、
天と地ほどの差があるが、今の俺たちにはこうすることしかできない。先に進まないかぎり、できるものもできやしない。
そんな思いが、2機と2人を動かしていた。
 ただ上へ、もう何分経過しているだろうか、俺たちは大気圏の真っ只中にいた。ミッションデータを見てみると、すでにヘカントケイルの
攻撃までもう10分もなかった。

輝咲(お願い・・・!)
暁(間に合えっ!!)

 大気圏の熱で赤く染まっている2機が、突然オレンジ色の光を放ちだした。そして光は俺たちを包み込み始める。

暁「な、なんだ・・・!?」
輝咲「この光・・・、温かい・・・。」

 光の粒子は、二機の原型を留めないまでに包み込むと、一瞬にしてはじけた。あまりの眩しさに眼を瞑っていたが、ゆっくりとあけると、
そこはもう既に大気圏を突破しきっていた。さらには周囲の残像から、かなりの速度でエイオスが移動しているのがわかる。

暁「これは?」
輝咲「暁君?」

 ふと後ろを振り返ると、そこには輝咲がいた。輝咲はフィーニクスに乗っていたはずなのに。しかもコクピットは複座型になっている。

暁「輝咲・・・?まさか、コイツは。」

 エイオスの羽を見ると、明らかに羽が大型化して、まったく別物となっていた。実体の羽というよりもオレンジ色をした光の翼とも言うべきか。
ノヴァという力を形にしたようなものだった。

輝咲「エイオスとフィーニクスは合体してるのかな?」
暁「かもしれないな。なら、名前は繋げて"フィニクオス"だな。」

 そんな話をしていると、眼前に鮮やかな光を放ち続ける標的を目視できた。

暁「見つけたぜ!」
ナーザ「急速接近してくる機体・・・?この速さ、既存のものではないな。」

 向こうもこちらに気付いたらしく、接近を許すまいとビームの弾丸を撃ってきた。

暁「遅いっ!」

 何十発と襲い来る黄色い光を、フィニクオスは見事な流線を描きながらかわして行った。

ナーザ「レイン、すぐにこちらの防衛に来てくれ。厄介な新型が来ているようだ。」
レイン「了解。だが時間がかかる。しばらくは持ちこたえてくれ。」
ナーザ「肝心な時に役に立たたないな。エインヘイトとエインシード隊を展開する。」
輝咲「暁君、ヘカントケイルの回りに増援!」
暁「あぁ!いくぜフィニクオス!!」

 直進をやめ、上へと進路を変える。

暁「ぐっ!」
輝咲「きゃっ!!」

 止まった衝撃に、俺たちは思いっきり前へとひっぱられた。シートベルトをしていなければ画面を叩き割る勢いだった。

暁「輝咲、舌かむなよ!」
輝咲「私だって、フィーニクスで高速戦闘は練習したんだから!」
暁「なら、その成果当てにするぜ!ガジェッター展開!!」

 フィニクオスの両肩付近の空間が湾曲する。

暁「アーバレスト・バスターランス!!」

 フィニクオスは俺の意志を理解し、それぞれの空間に手を突っ込み、左右の手が巨大な大槍を掴んだ。

暁「って、一気に2個も!?」
輝咲「これはフィーニクス自体の能力、フィーニクスは魔神機の中でも復元・複製の能力を・・・。
   あれ?なんで私こんなこと知ってるんだろう?」
暁「輝咲、記憶取り戻したのか?」
輝咲「たぶんこの子が私のインフォーマーとしての指名を復元したんだと思う。」

 輝咲自身も驚いている様子だった。それに、フィーニクスが魔神機というのは。いろいろと聞きたかったが、今はそれどころではない。
両手に握り締めたバスターランスを振りかざし、迫り来るエインヘイトとエインシードの群れに突っ込む。

暁「とりあえず色々聞きたいけど、ヘカントケイルぶっ潰してからだな!」

 突然一番近くにいたエインヘイト3機が爆発した。

輝咲「サンクチュアリ・クラスター!」

 フィニクオスの周囲をノヴァの光が包み込み、衝撃と破片を相殺した。どうやら輝咲の方でも機体は操縦できるようだ。

輝咲「暁君、これ全部無人機で爆弾がしかけてられる。」
暁「時間稼ぎにしちゃ汚いな・・・、それなら!」

 オレンジ色の羽を広げ、バスターランスを前に構える。

暁「ヘカントケイルに近づくだけだ!!」

 文字通り、光速といえるほどのスピードで雑魚の群れを一気に突破し、ヘカトンケイルの巨体に近づいた。

ナーザ「ふん、ドライヴァー自身も成長している・・・というわけか。
    だが、これだけ充填率があれば、すぐにでも発射してやるさ。」

 ヘカントケイルの中央部が宇宙の中でも分かるほどどす黒い球体を作り出す。

暁「輝咲、時間がない!一気に決めるぜ!」
輝咲「うん!分かった!」

 ヘカントケイルに接近するフィニクオスの体が、オレンジ色に染まる。

暁「フェニックス・ノヴァ!!」
輝咲「フェニックス・ノヴァ!!」

 オレンジ色の煌く粒子達がフィニクオスを中心に、まさに不死鳥の様な形を模した力となった。

ナーザ「遅い!グラヴィデジョン・プレッシャー、発射!!」
エルゼ「残念だな、ナーザ・エンシュメイス。お前の負けだ。」
ナーザ「何!?」
暁「いっけぇぇぇぇっ!!!」

 ヘカトンケイルが見せた不自然な一瞬の隙を、まるで鷹が獲物を仕留めるかのごとく不死鳥が貫く。

ナーザ「何故だ、エルゼ――・・・。」

 ただ穴の空いた鉄くずとなったヘカントケイルを背に、フィニクオスは従来の姿へと分裂した。

暁「今のは・・・?」
輝咲「分からない・・・、けど一瞬ヘカントケイルが発射をやめたように見えた。」

 振り返ると、鉄くずと残りのエインヘイトとエインシードが全て爆発した。

エルゼ「成し遂げたようだな、鳳覇 暁、そして榊 輝咲。」
暁「エルゼ!」
輝咲「っ!!」

 姿は見えないが、エイオスの通信からエルゼの声が聞こえた。輝咲にも聞こえているのだろう。

エルゼ「あのままグラヴィデジョン・プレッシャーを放ってもらってもよかったのだが。
    どうやら君達の運が一枚上手だったようだ。」
暁「どういうことだ!?リネクサスの目的はあれを放つことじゃないっていうのかよ!」
エルゼ「そう、だがそれは"リネクサス"としての目的であって、私の目的ではないのだよ。
    私はこの世界から人類という下等生物を取除いて、この世界を手に入れる必要がある。
    その生物を取除くための手段が、あれであったに過ぎない。」
輝咲「人は下等なんかじゃありません!」

 身を乗り出して輝咲が反論した。

エルゼ「榊 輝咲、結局はこうして機神や魔神機が生まれているということは、それが事実ではないからだ。
    意志があるものは胸の奥底では、自らを尊重し生き続ける。」
暁「本当にそう思っているなら、お前は可愛そうな奴だ。俺たちがここまで来たのは、お互いに信じあっているからだ!」
エルゼ「ならば、その想いは人と、お前達の言葉でいう異星人との間でも言えるのか!
    人間という下等な存在がいたから、私の星は滅びたのだ!!貴様等の手によってな!!」
輝咲「まさか・・・あなたは・・・!!」
エルゼ「覚えているだろう榊 輝咲。貴様等の時代の人間が起こした宇宙開拓によって滅ぼされた、惑星イオの住民だ!!」
暁「宇宙開拓・・・?どういうことだ?」

 輝咲は理解しているらしいが、俺にはさっぱりだった。

輝咲「でも、惑星イオが見つかったときは、何も住んでいなかったはずです!」
エルゼ「あぁそうだ。見つかったときに私を含め数人以外の全ての住民は貴様等の手によって滅びたんだからな。」
輝咲「そ、そんな・・・!!」
エルゼ「だから私は人類を消滅させ、ここに新たなる惑星イオを作り出す。貴様等が我々にしたようになぁっ!!」

 威圧感、恐怖感、全てのマイナスの感情を含んでいるエルゼの怒りの声は、宇宙という広大な空間の隅々にまで響き渡っているような気がした。
そのプレッシャーに、俺も輝咲も言葉を交わすことができず、ただぽつりと宇宙に浮かんでいた。


 -EP27 END-


© Rakuten Group, Inc.